Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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破綻の構造〜外なる破綻と内なる破綻
 「破綻の臨界点」 については 第2086回 で書いたが、ここでは 「破綻の構造」 について考える。 破綻には身の外における破綻と身の内における破綻という 「ふたつの構造」 がある。 それは身の外が壊れるのか、それとも身の内が壊れるのかの違いである。 現代人にとっての視点は、もっぱら身の外にある破綻に多くの関心がはらわれているものの、身の内にある破綻にはそれほどの関心がはらわれてはいない。 だが最も警戒し注力しなければならないのは 「身の内なる破綻」 である。 以下の記載は 「信州つれづれ紀行」 で訪れた伊那市の春日城址公園での所感 「確かな生活」 からの抜粋である。
 春日城址公園は中央道伊那IC近く、西に中央アルプス、東に南アルプスを望む伊那谷の高台に位置している。 私が訪れたのは汗ばむほどの春日の昼下がりのことであったが、新緑の公園を渡る風はすがすがしく、遊びに夢中な子供たちの歓声が林間にこだましていた。 公園東端の本丸跡の高台からは南アルプス連峰を背にした伊那市街が眼下に一望することができた。 優美な稜線を描く仙丈岳はいつ眺めてもあきない美しさがあると感じ入りながら、直下の麓に目を移すと結婚式場なのであろう、ビルの屋上に華やかな正装に身を包んだ若者たちが集っており、彼らがあげる笑い声が風に乗って高く低くここまで渡ってくる。 ここにはかっての地方都市がもっていたであろう古き佳き堅実性に裏打ちされた 「確かな生活」 がいまだのこっている。 それはもはや大都市では失われてしまったものなのであろうが ・・。
 きびすを返して歩いていた私の視界に公園の片隅にひっそりと立つ慰霊碑がとらえられた。 碑文には第2次大戦のシベリア抑留者慰霊碑とある。 瞬時、かってシベリアに長期抑留され、ようようにして帰国した、とある社長の言葉が脳裏に甦った。 「物で栄えて、心で滅ぶような国にはなってほしくないものです ・・」。 白髪痩身、幾多の苦難を乗り越えてきた静かな面立ちの老社長の言葉が周囲の木立から降るように語りかけてきた。 はっとした私ははからずも背筋を正した。 (2009.05)
 
  以上の記載を省みれば、身の外なる破綻は始まっていたものの、地方都市では身の内なる破綻までには至ってはおらず 「確かな生活」 はいまだ健在であったことが分かる。 だが現在の様相を鑑みれば、シベリア抑留から帰国した老社長が危惧した 「物で栄えて、心で滅ぶような国にはなってほしくない」 とする予言は現実として顕現しつつある。 内なる心が滅んでしまっては、もはや国どころではなく万事休すである。 今や、願った 「確かな生活」 は失われようとしているのだ ・・ 前途多難とはまさにこのことである。

2026.06.01


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