Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
Turn

他我問題の解消〜意識と物質の狭間
 哲学の最難問に 「他我問題」 がある。 他我問題とは 「他人の心をいかにしてわれわれは知りうるかという哲学的問題。 例えば、友人と赤の交通信号を見ている。 そのとき私と友人の赤の感覚は同じだろうか違うだろうか? あるいは、友人はそもそも何かの色を感じているのだろうか?」 という問いである。 その答えは 「他人の心を直接に知る方法はありえない、なぜなら私は他者ではないからである」 となる。
 だが、2023年11月30日。 量子科学技術研究開発機構などの研究チームが、心の中で思い描いた風景や物体などのメンタルイメージを、機能的磁気共鳴画像装置で取得した脳の信号から復元する新たな技術を開発したことを発表した。 この研究結果を使用すれば、「他人の心を直接的に知りうることが可能」 となる。 もしこれが事実ならば、長らく解けないとされてきた哲学的難問に解決の道が拓かれたことになる。 それは思いもしないことであった。
 以下の記述は、第1778回 「現象とは何か〜哲学と物理学の邂逅」 からの抜粋である。
 この宇宙は主観とは別に客観的に存在しているのか? それともそのような 「客観的な宇宙」 は存在せず 「主観的な宇宙」 をただ客観的な宇宙と錯覚しているのか? この正誤は永遠に判定できない。なぜなら主観的宇宙が自らの死後もなお存続し続けるのかは自らが亡くなってみなければわからないからに他ならない。 同様に客観的な宇宙もまた自らの死後も存続し続けるのかも自らが亡くなってみなければわからない。 自分以外の他者が死んでも客観的な宇宙は存続しているではないかという主張は証明にならない。 そこには 「他我問題」 の壁が横たわっている。 他我問題とは他人の心をいかにして我々は知りうるかという哲学的な難問であり、結論から言えば 「他人の心を直接に知る方法はありえない、なぜなら私は他者ではないからである」 というものである。 つまり、自分以外の他者が生きている世界もまた私の主観的な世界であって、私は他者ではなく、亡くなった他者の主観を直接的に知る方法はないのである。 結局、堂々巡りの末に、「自らが死んでみなければわからない」 という、はなはだ曖昧模糊とした解決策に帰着してしまうのである。
 この宇宙が 「意識的現象」 として存在しているのか? それとも意識に関係なく 「物質的現象」 として存在しているのか? かくなる問いが 「自らの生前に解明できる」 とすれば、まさに 「画期的発見」 以外の何ものでもない。

2023.12.04


copyright © Squarenet