Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知のワンダーランドをゆく〜知的冒険エッセイから
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機械屋か電気屋か
 先日、とある友人と喫茶店でとりとめなく話をしていたときのことである。私が機械屋になった(機械工学を専攻した)のは、「電気はどうも目には見えないし、さわるとしびれるし、得たいがしれない、それにひきかえ機械は叩けばへこむし、持てば重いし、得たいがしっかりしている、何より機械に指を挟んだ痛みには耐えられても、電気にしびれる痛みには耐えられない」と言うと。電気屋である(電気工学を専攻した)彼は「俺は電気にしびれる痛みには耐えられても、機械に指を挟まれる痛みには耐えられない」と答えた。彼が今も電気屋でいることはそのせいだというわけである。
 その言葉に私は目から鱗が落ちたように納得した。電気屋から見た機械屋とはそのような者なのかと頓悟したのである。機械屋は子供の頃に「時計を壊す」ことに熱中した者であり、電気屋は「ラジオを作る」ことに熱中した者なのである。機械屋になりたいか、それとも電気屋になりたいかは、その後の人生を図るにおいて、かく「本質的」な問題なのである。私としては世のすべてを機械屋の視点から見てきたのであり、その視点を逆転するのに、かくも長い歳月を要したということなのである。
 もっとも、いい年のふたりが「しびれる痛みには耐えられない」、いやいや「挟まれる痛みには耐えられない」などと、口角泡を飛ばしている姿を、店内にいた青年たちは「どのように思って」眺めていたかは知るよしもないのだが ・・ うら若いウェイトレスはあきれ顔で通りすぎていった。
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