アイデアの発見と運用
知の羅針盤〜スクエアメカニズムの開発〜知的ツールシステムの構築

知の羅針盤
  未知の領域を探求する開発者にとって、進むべき開発の方向性と妥当性はいかに保証され把握されるのでしょうか。未知の領域を航海する船乗りは「羅針盤」を携えることなしに航海することはありません。羅針盤なしで大海原に船出することは無謀であって命の安全は保証されません。彼らが羅針盤に絶大な信頼をおく理由は、羅針盤が指し示す方位が、いついかなる状況下においても、狂うことなく正しいことを知っているからに他なりません。絶対的基準とする羅針盤があるがゆえに暗黒の大海のただ中にあっても安心して眠ることができ、無事に目的地に到着することができるのです。未知の領域を開拓する開発者にとっても状況は何ら変わるところはありません。変わるところがあるとすれば、物質的な大海原を航海するのか、意識的な大海原を航海するのかの違いだけです。では開発者はいかなる羅針盤を携えて未知なる大海原に船出すればいいのでしょうか。
 宇宙自然界には万物事象をかくそのように存在させている「内蔵秩序」があります。この内蔵秩序のことを、我々は一般的に「法則」と表現したりしています。私は先人が見いだした数々の法則を学んでいくうちに、それらの法則のどれもに共通して内在するさらなる高次の秩序の存在に行きあたりました。その根源的な内蔵秩序こそが「対称性」であったわけです。かくなる対称性の研究を進めるうちに開発者が携える羅針盤として宇宙自然界の万物事象に内蔵されている「対称性」こそがふさわしいことが理解されました。この絶対的基準に基づいて開発を進めれば、開発の方向性を誤ることなく、確実に目的地に到達できるとともに、開発された成果はすべてにおいて存在の整合性を具備したものになるに違いないと予測したのです。

スクエアメカニズムの開発
  私は機械工学の技術者ですから、機械メカニズムの開発にこの対称性基準の予測を試みることにしました。機械メカニズムは「構造」と「運動」から構成されます。この2つの構成要素に対称性基準を適用すると「構造の対称性」と「運動の対称性」という2つの対称性が見えてきました。やがて構造の対称性からは普遍的形状「□」という構造の機能的対称性が、運動の対称性からは普遍的循環数「4」という運動の機能的対称性が発見され、発見された2つの機能的対称性を従来の機械メカニズムに適用させることで新たな機械メカニズムが次々に再構築され一気呵成に体系化されていきました。体系化された「構造と運動の対称性メカニズム(別名/ □と4のメカニズム)」は「スクエアメカニズム」と名付けられ、その後の実践的運用を経て、予測された対称性基準の妥当性が実証され、以下の各賞を受賞しました。
 ■ 1996年 「2次元運動機構」で第21回 発明大賞・考案功労賞を受賞
 ■ 1998年 「スクエアメカニズム」で第10回 中小企業優秀新技術・新製品賞を受賞
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スクエアメカニズムを基本にして製品化された産業用ロボット「スクエアロボット」の概要

知的ツールシステムの構築
  スクエアメカニズムの開発は「知の羅針盤」があらゆる思考活動において決定的に重要な役割を担うことを私に教えてくれました。幸運にまかせての「犬も歩けば棒に当たる」や「下手な鉄砲も数撃てば当たる」等々の試行錯誤的な思考方式では多くの成果を得ることはできないのです。ことを遠足に例えれば、目的地に至るためには「位置を知る地図」と「方位を知る羅針盤」の2つが必要不可欠です。最も今ではスマホのナビを使えばその両方を知ることができるわけですが、これは例えですから。「知の遠足」における地図とは「知識」であり、これはしっかり勉強すれば身につきます。これもまたスマホのアプリを使えば知識などは勉強しなくても得られると言われそうですが。問題は「知の遠足」における「知の羅針盤」です。いくら知識という地図で知の現在位置がわかったとしても、知の方位がわからなければ、知の目的地に向けて探求の歩みを進めることはできません。それはスマホをもっていても同じことです。あらゆる知識が集積されたスマホであっても知の方向を指し示す知の羅針盤は見あたりません。(やがてはできるのかもしれませんが?)
 知の探求は「知の演繹」と「知の帰納」の循環によって進行します。知の演繹とはひとつの真理をさまざまな事象に展開することであり、知の帰納とはさまざまな事象から得られた真理をひとつの真理に統合することです。帰納された真理は再び演繹され、演繹された真理は再び帰納されて、次々に循環するというわけです。
 真理を演繹することは比較的容易ですが、真理を帰納することはそう簡単ではありません。知の羅針盤はその簡単でない「真理の帰納」から創られるわけですから「おいそれ」とはいきません。しかし、知の羅針盤を創りだすことができれば、それは「打ち出の小槌」のように万能性を秘めた道具として機能するに違いありません。
 「知的ツール」とはこの「知の羅針盤」のことであり、精巧に創られた知的ツールは「知の打ち出の小槌」として機能するはずです。「スクエアメカニズム」もまた知の帰納から創られたひとつの「知的ツール」であり、オペレーティングシステム化された「知的ツールシステム」は、商品開発、技術開発において「知の羅針盤」として秘められた効力をいかんなく発揮することでしょう。

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