| 前段2行は人間の不明かくのごとしであるが、熟考すべきは後段2行の
「生れ生れ生れ生れて 生の始めに暗く 死に死に死に死んで 死の終わりに冥し」 である。 生れ生れ生れ生れる前にあった生の始めとは、人が何度も何度も生まれ変わってきた遥かな過去にあった
「始まりの世界」 であろう。 その始発の前にあった世界を空海は 「暗い闇」 と表現する。 他方、死に死に死に死んだ後にある死の終わりとは、何度も何度も生まれ変わっていく遥かな未来にある
「終わりの世界」 であろう。 その終着の後にある世界を空海は 「冥い闇」 と表現する。 これらの記述はあたかも現代宇宙物理学が述べる
「ビックバン宇宙論」 の様相を述べているかのように私には思える。 ビックバン宇宙論とは、宇宙が1点の大爆発(ビックバン)から始まり、膨張を続けたあと、やがて収縮に転じて、再び1点への大崩壊(ビッククランチ)で終わるという現在において最も妥当であろうとされている宇宙モデルである。
現代物理学ではビックバン点とビッククランチ点の2点は科学理論が破綻してしまう特異点であるとしてそれ以上の探求は不可能である。 空海はその2つの特異点を
「暗い闇」 と 「冥い闇」 という言葉で表現したのである。 ただそのビックバンの闇を 「暗い」 とし、ビッククランチの闇を 「冥い」
と書き分けたところに空海が至った理解の深淵さが横たわっている。
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