Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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天下百年の計〜奇跡の邂逅
 信州つれづれ紀行 に誘われて2009年8月、私は伊那谷の中央、伊那市にある伊那食品工業株式会社が主宰する 「かんてんぱぱガーデン」 を訪れた。 このガーデンを企画するにあたっては、山麓に広がる周囲3万坪の会社敷地内に自生した赤松の木が一本でも多く残るように工夫して整備されたという。 園内はさながら清澄な気に満たされて逍遥するに足る自然庭園の風情を漂わせるに充分なものであった。 以下の記載はその時の所感を書いたものである。
 「かんてんぱぱガーデン」 を造るにあたっては、会社による街づくりの一環であって、働く人や地域の人、訪れる人が安心して憩える空間を提供したいというコンセプトのもとに企画されたという。 「いい会社とは」 単に経営上の数字がいいというだけでなく、会社をとりまくすべての人々が、日常会話の中で 「いい会社だね」 と言ってくれるような会社でなくてはならないことを社是としているのである。 このような考え方の根底には江戸時代末期の篤農家で実践的な思想家でもあった二宮尊徳翁の以下のことばが依拠されており、以来20年以上に渡って会社案内の冒頭に掲載されているという。
遠きをはかる者は富み 近くをはかる者は貧す。
それ遠きをはかる者は 百年のために杉苗を植う。
まして春まきて秋実る物においてをや。
故に富有なり。
近くをはかる者は 春植えて秋実る物をも尚遠しとして植えず
唯眼前の利に迷うてまかずして取り
植えずして刈り取る事のみ眼につく。
故に貧窮す。
 まさに 「天下百年の計」 がここにある。 信州の自然とともに輝きを失わない会社である。
 かくして時は流れ、2026年6月29日、亡くなった同社の最高顧問塚越寛氏の訃報を受け、トヨタ自動車の豊田章男会長が追悼の言葉を寄せた。 企業の急成長や利益追求優先から距離を置き、会社を木の年輪のように少しずつ成長させる 「年輪経営」 を実践してきた塚越さんの経営理念が自身の 「道標」 になったとして生前の親交に心からの感謝をつづったのである。 豊田会長がトヨタ自動車社長に就いたのは 2009年6月 のことで、折しもリーマン・ショックによる世界不況で販売は急減、2009年3月期決算は最終赤字に転落していた。 当時を振り返り、塚越さんの 「年輪経営」 には本当に勇気づけられたと述懐するとともに、年輪経営にちなんだ 「年輪時計」 という置き時計を大切な人に贈っていることも明かした。 毎年少しずつ経営の幹を太くし、「トヨタが成長すると世の中がよくなる」 と言っていただけるような会社を目指したいと 「変わらぬ思い」 を強調するとともに、塚越さんから教わった経営者としての初心を忘れることなく今後も登り続けてまいりますと締めくくっている。
 私が同所を訪れ 「天下百年の計」 の所感を書いたのは期せずして 2009年8月 のことであった。 その裏で塚越寛氏と豊田章男氏のかくなる邂逅があったことなど想像だにしないことであった。 今となれば共時性が紡いだ不可思議な 「時空のめぐり逢い」 を感じざるをえない。 信州の片田舎にある小さな会社の社長と世界に名だたる大きな会社の社長がいかなる経緯をもって肝胆相照らす親交を結ぶに至ったのかは奇跡のような出来事であるが、宇宙の センターレス(無中心) と ボーダーレス(無境界) を明らかにした 「非局所的宇宙構造の理」 からすれば 「さもありなん」 と納得させられる。

2026.07.09


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