Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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夜明け前
 世相はますます人間にとって生きにくくなっている。 かっての時代は 「人間の時代」 であった。 言うなれば 「人間が主役」 の時代である。 現代は 「科学の時代」 である。 言うなればそれは 「機械やコンピュータが主役」 の時代である。
 ではそれは 「誰のための時代か」 と質問の方向を代えれば返答に窮する。 人間の時代は言うまでもなく 「人間のための時代」 であった。 だが現代の科学の時代となると、胸を張って 「人間のため」 と断言することに躊躇を覚える。 文字通り言えば、それは 「科学のための時代」 ということになる。 人間はそのための従僕であり、アシスタントであり、支援者であり、協力者であり ・・ 等々である。
 現代がもっとも特徴的なことは、この 「誰のための時代か」 という根本義がゆらいでいるところにある。 それは政治経済から学術文化等々まで全般に至る。 つまり、「誰のための政治」 なのか? 「誰のための経済」 なのか? 「誰のための医療」 なのか? しかして 「誰のための学校」 であり、「誰のための文化」 なのか? 言わずもがな、それは 「人間のため」 である。
 巷間 「世も末」 が叫ばれるようになって久しい。 だが 「世も末とはまた夜明けは近い」 ということでもある。 島崎藤村が描いた小説 「夜明け前」 は幕末から明治維新という激動の時代、信州木曽の馬籠宿を舞台に、理想に燃えた地方知識人としての青山半蔵が維新の現実に絶望し挫折していく姿を描いた長編歴史小説である。 「木曾路はすべて山の中である」 の書き出しで始まる不朽の名作である。
 あるいは、今起きている時代の変遷もまた明治維新という激動の時代に匹敵するようなものなのかもしれない。 古人曰く、「夜明け前が一番暗い」 というのであるが ・・ 畢竟如何。

2026.04.29


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