ロイ・コーンは 「ドナルド・トランプを創った男」
と言われている。 彼は悪名高き辣腕弁護士で政治フィクサーとして知られている。 若き日のトランプに迫った映画 「アプレンティス」
は彼との関係を軸にドナルド・トランプの実像に迫っている。
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ドナルド・トランプに影響を与えた最も重要な人物はロイ・コーンであるとする映画
「アプレンティス」 を監督したアリ・アッバシは、その経緯を簡潔にして直裁に語っている。 以下の記載はその抜粋である。
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トランプの性格で興味深いのは、自分にとって有益な人物が持っているものを
「吸収する能力」 である。 その中でも最も大きな影響を与えたのがコーンとの関係であり、特に政治的な人物であるという点でも重要な存在であった。
トランプがコーンから学んだのは、世界の捉え方、制度をどう利用して、逃げ切り、抜け道を探すかという物事のやり口、それに道徳的な規範を持たないという根本的な考え方等々であった。
抜け目のない政治家はこうしたことを本能的に知っている。 人間は善良だと言いながら、冷淡で計算高く、表と裏の顔を使い分けている。
コーンはそうした計算がうまく、凶暴な力で自分の利益を追求する達人であった。 トランプはそのやり方をコーンから学んだのである。
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コーンはトランプに 「攻撃、攻撃、攻撃」、「非を認めず全否定しろ」、「どれだけ劣勢に立たされても勝利を主張しろ」
という 「3つの勝利の法則」 を教える。 トランプがよく使うフレーズのひとつに 「みんながこう言っている」 という台詞があるが、これはまさにコーンの言い回しであり、「自分は不公平に扱われている」
という台詞もまたコーンがよく使うものであった。 さらに誰かと親しくしてその人を裏切り、もう一度和解するというやり方もコーンの手法そのものである。
こうしてトランプはコーンの政治的イデオロギーを確実に理解して 「身につけた」 のである。 映画ではこういった2人の関係を 「3つの勝利の法則」
という形でドラマチックに描いた。
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トランプはグリーンランドやパナマ運河を手に入れるなどと攻撃的な発言をしているが、私はこの状況は1930年代に
「ヒトラーが台頭」 した時と似ていると感じている。 人々は最初、ヒトラーを 「ちょっと変わった人物だが、放っておこう」 くらいに考えていたと思う。
ドイツの勢力を拡大すると言った時も 「おかしな人物だが、実際にはやらないだろう」 と受け止め、ポーランドに侵攻した時は 「ポーランドだし、別に大丈夫だろう」
と考えていた。 人々がようやく真剣に捉えるようになった時には、ヒトラーはすでにヨーロッパ各地を制圧していたのである。 今、ヨーロッパの政治家たちは、なんとかアメリカとの良好な関係を保とうとしている。
特にスカンジナビア諸国は、アメリカにあらゆる面で依存しており、文化的にも近い関係にある。 デンマークの首相は、なんとしてもアメリカとのトラブルを避けたいでしょう。
しかし、私たちは相手が 「どんな人物」 なのかを認識しなければいけない。 トランプは2歳の子どもがお菓子を欲しがるように 「グリーンランドがほしい、くれないなら取る」
と言っている。 そんな人物を相手に毛布をかぶって隠れていることはできないのである。 私は今回のアメリカ大統領選挙でトランプ氏に投票した人たちは、具体的な政策よりも、すべてを壊そうとする
「彼の姿勢」 を支持したのではないかと思っている。 私はトランプ大統領には選挙の公約を実行してほしいと思っている。 投票した人たちには
「その結果」 を見てみてほしい。 そして世界がそれを乗り越えられることを願っている。
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※)アリ・アッバシ
1981年生まれ。 イラン出身。 テヘランの大学に在学中にストックホルムに留学したのち、デンマーク国立映画学校で演出を学ぶ。
長編映画監督デビュー作 「マザーズ」 がベルリン国際映画祭でプレミア上映され、アメリカでも公開される。 2作目の 「ボーダー 二つの世界」
はカンヌ国際映画祭でプレミア上映され、ある視点部門のグランプリを受賞。
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アリ・アッバシの言うところを素直に斟酌すれば、猛進する
「アメリカファーストの政策」 をトランプ大統領が 「自ら改める」 ことなど到底にして望むべきもないであろう。 それは 「3つの勝利の法則」
から導かれる当然にして 「必然的な帰結」 なのである。 迷いのない信念ほど強力なものはなく、時には恐怖さえ覚えるほどである。
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