Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
Turn

一隅を照らす〜片隅に咲く
 全体としてのグローバル世界が終焉したあとに登場するであろう片隅としてのローカル世界の本質とはいかなるものであろうか?
 ローカル世界は 「片隅の世界」 とも表現できる。 「この世界の片隅に」 というアニメーション映画が大ヒットしたのは2016年のことであった。 またノートルダム清心学園理事長の渡辺和子の著書 「置かれた場所で咲きなさい」 は片隅の世界に咲くことの意義を描いたもので、2012年に発行されるや200万部を超えるベストセラーとなった。
 比叡山延暦寺を開創した伝教大師、最澄の修行は法華経を深く探求するところから始められた。 釈迦の教えをまとめた 「教典」 の数は 84,000 あるといわれるが、法華経は釈迦の晩年8年間で説かれた集大成の教えであって 「誰もが仏になれる」 という大乗思想の根本教典である。 最澄はその法華経の中から 「照千一隅」 の字義を見いだした。 最澄はその 「照千一隅」 を 「一隅を照らす」 と簡潔に表現したが、本来は 「一隅を守るは千里を照らすなり」 という意味で、すべての人がそれぞれの分野で全力を尽くして生きて行くことが、結局は国全体を照らすことになるという教えがその解釈である。 最澄はそれを万民にわかるように 「一隅を照らす者は国の宝である」 と意訳したのである。
 華厳経もまた法華経同様に大乗仏教における中心経典であって 「一はすなわち一切であり、一切はすなわち一である」 とする 「ホロニクス」 を中核とする教えである。 ホロニクスとは、どんな部分にも全体の動向がふくまれているような関係にある 「部分=全体系」 のことである。 茶人、千利休は 「世の中のこと一杯のお茶にしかず」 と浮き世に潜在するホロニクスの核心を看破した。 私はかくなるホロニクスの胎動を 「宇宙の内蔵秩序」 と位置づけ 「細部は全体、全体は細部」 と表現した。
 グローバル世界が終焉したあとに登場するであろうローカル世界への胎動をアナログ的(連続的)に眺めれば、ローカルとしての片隅の世界から始まった世界が、グローバルとしての全体の世界を貫いて、再びローカルとしての片隅の世界へ回帰しようとしているように観える。 他方、その胎動をデジタル的(重層的)に眺めれば、グローバルとしての全体の世界がローカルとしての片隅の世界へと入れかわっていくように観える。 ともあれ、グローバル世界からローカル世界への転位の本質は、かくなる 「2つの視点」 から語られていくことになるであろう。

2023.08.10


copyright © Squarenet