Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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俺は風だ
 内なる世界と外なる世界が乖離してしまった人間はいかにして救済されるのか?
 結論から言えば、「何もしないこと」 である。 それは人間以外の生物をつぶさに観察すれば明らかであろう。 内と外の世界が分裂してしまった生物や、その2つの世界を一致させようと日々奔走している生物など、寡聞にして私は、未だ見たことがない。 彼らは無為にして自然に生きているに過ぎないのである。 目指す 「宇宙の心」 とは、そのようなものではあるまいか?
 第1743回 「宇宙の心を求めて」 で取り上げた、著書 「時空の旅」 の中で 「宇宙の心」 にアプローチするヒントについて書いている。 以下はその抜粋である。
 ある写真家がアマゾンを探検していて、密林から抜け出た瞬間に、待ちかまえていた未開の原住民に取り囲まれた。 彼らは弓矢を持ち、この見知らぬ侵入者を殺そうとしていたのである。
 「おまえは何ものだ」 原住民の首長が問いかけた。
 「俺か、俺は風だ」 写真家は答えた。
 この写真家は世界各地を旅し、自然の偉大さや自然の心に接し、より 「宇宙の心」 に近かったから、とっさにこのような答えとなったのであろう。 それを聞いた 原住民は畏れおののき走りさったという。 「俺は風だ」 と言うような人間は、彼らには自然の申し子のように見えたであろうし、とてもかなわぬ相手と感じたのであろう。 しかし、この写真家の 「俺は風だ」 という言葉は、とっさにでるものではない。 それは、まさに彼はアマゾンの密林を自分が風となって渡って来たのであり、風の心であったればこそ、実に素直に彼の口から出たのである。 だからこそ 「宇宙の心」 に一番近い未開の地の原住民の心に、このような畏敬の念を感じさせたのである。 「宇宙の心」 にアプローチするヒントを我々に教えてくれる話ではないであろうか。

2023.04.24


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