Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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時空を超えて甦る〜重忠館の段
 NHK大河ドラマ 「鎌倉殿の13人」 は視聴者から惜しまれつつも終幕を迎えた。 話はそのことではなく、第675回 「原田芳雄の風景〜映画 “大鹿村騒動記” ロケ地にて」 で書いた以下の記述のことである。
 映画 「大鹿村騒動記」 の中で上演された歌舞伎 「六千両後日文章 重忠館の段」 は大鹿歌舞伎にのみ伝わる演目で、原田演じる平家の落人、景清が源氏の大将、源頼朝の重臣、畠山重忠にたった一人で戦いを挑むが、最後に源氏の世を見たくないと自ら両眼をくりぬき目から血を流しながら 「仇も恨みもこれまでこれまで」 と見得を切る。 方や頼朝もまた自分を殺そうと襲いかかってきた景清を許す。
 勿論。 「鎌倉殿の13人」 の中では上記の 「エピソード」 は出てこない。 だが平家の落人伝説がのこるこの村で、300余年に渡って伝承されてきた大鹿歌舞伎にのみ伝わる演目で、今尚、演じられていることに感興が湧いたのである。 源頼朝の重臣、畠山重忠は武勇の誉れ高く、その清廉潔白な人柄で 「坂東武士の鑑」 と称された 「もののふ」 であった。 私には、そのことが大鹿歌舞伎にことさらの華を添えているように思えるのだ。 大河ドラマの中では、中川大志がその重忠を演じた。 その秀麗な姿が多くの視聴者に忘れがたい共感を残したことはつい先日のことである。
 大鹿村で生き延びた平家の落人たちにとって 「重忠館の段」 は、あるいは史実に近い何かがあったのではあるまいか? それが時空を超え大鹿歌舞伎の中で甦るのかもしれない。

2023.01.23


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