Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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この国のかたち〜歴史観の喪失
 「この国のかたち」 は司馬遼太郎による歴史随想である。 1986年から1996年に渡って月刊 「文藝春秋」 の巻頭随筆として冒頭に掲載された。 連載は司馬遼太郎の急逝によって終了したが 「司馬史観」 と言われた独自の歴史観を基にこの国の行く末に警鐘を鳴らした。 警鐘は言うなれば去りゆく司馬遼太郎がこの世に残した遺言のようなものであった。 だがその遺言がその後の日本に司馬遼太郎が願ったほどに役立ったとは思えない。
 それどころか私には現在の 「この国のかたち」 がいびつにゆがんで悲鳴をあげているかのように見える。 時間は前にのみ進むのだから、過去の歴史に習ってみても意味がないとする現代人の 「功利主義的風潮」 が司馬遼太郎の警鐘を覆い尽くしてしまったのである。 文明はかくなる文明が 「繁栄した理由をもって滅ぶ」 といわれる。 もし歴史を省みることなき 「功利主義的風潮」 が日本の繁栄をもたらした理由であるとするならば、その風潮をもって日本は衰退することになる。 司馬遼太郎が言いたかったこととは 「このこと」 であったのではあるまいか?

2022.11.30


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