Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
Turn

シンプルな宇宙と永遠回帰説
 過去・現在・未来が連なった 「線形時間」 を廃棄することで行き着いた宇宙とは 「今の今」 という 「現在だけで構成」 された 「シンプルな宇宙」 であった。 過去や未来はその現在に含まれている。 人類はなまじ意識的持続力をもつがゆえに記憶力や想像力によって実在しない過去や未来をバーチャルとしての仮想空間に創りだすことで自らが生きる世界を複雑化させ頭を悩ませているにすぎないのである。
 哲学者ニーチェが唱えた 「永遠回帰の構造」 とは 「今の今という現在を起点として未来に向かうと過去に至り、その過去から再び今の今という現在に回帰する」 というものである。 今の今という起点は円環上のすべての点であって、そこは 「始点」 でもあり 「終点」 でもある。 「存在と時間」 を著した同じドイツの哲学者ハイデッガーはその 「永遠回帰説」 について次のように語っている ・・ 未来において何が起こるかはまさに決断にかかっているのであり、回帰の輪はどこか無限の彼方で結ばれるのではなく、輪が切れ目のない連結をとげるのは、相克の中心としての 「この瞬間」 においてなのである。 永遠回帰におけるもっとも重い本来的なものは、まさに 「永遠は瞬間にあり」 ということであり、瞬間ははかない今とか、傍観者の目前を疾走する刹那とかではなく 「未来と過去との衝突」 である ・・・。
 回帰の円環上のすべての点が今の今という現在であって、それらの現在点が物事の始点でもあり終点でもあるとするニーチェの 「永遠回帰の構造」 は冒頭に掲げた過去と未来を含んだ今の今という 「現在だけで構成」 された 「シンプルな宇宙」 の構造に限りなく相似(※)する。 人間以外の生物に過去や未来があるのかはわからないが、私には彼らが今の今というこの瞬間を永遠に昇華させているようにみえる。 人間より遥かに短い生涯しかもちえない彼らであってもその生はすでにして永遠に行き着いているようにみえるのである。 なまじ認識力に優る人間であるがゆえに今の今という足下には目がいかず遥か彼方の 「ありもしない永遠」 を求め続けているのかもしれない。
(※)私の追求した宇宙構造が別の道をたどってニーチェ思想の構造に至ったことは不可思議な共時的相似性を感じる出来事であった。

2022.09.25


copyright © Squarenet