Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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右脳と左脳の闘い〜映画「影武者」に思う
 映画監督、黒沢明(1910年〜1998年)と役者、勝新太郎(1931年〜1997年)は映画 「影武者」 の製作をめぐって激突した。 黒沢は認識力に秀でた左脳の人であり、勝は直観力に秀でた右脳の人である。 衝突しないはずがない。 結局は製作の途中で袂を分かち世紀の共演は頓挫してしまった。
 黒沢の手法は緻密であるとともに重厚であり、スケールの大きな映画にその才を発揮する。 他方、勝の手法は散漫であるとともに軽妙であり、スケールの小さな映画にその才を発揮する。 黒沢が指揮した 「乱」 の作風と勝が指揮した 「座頭市」 の作風を比べればその違いは歴然と了解されるであろう。 黒沢の製作方法は脚本に忠実で撮影現場ではその一言一句が再現される。 他方、勝の製作方法は撮影現場での直観によって逆に脚本が修正される。 どだい合うはずがない。
 だが、黒沢の左脳的手法は予定された結果には行き着くが、それ以上のものにはならないのに対し、勝の右脳的手法は時として予期せぬ効果が生まれ予定された以上の結果に行き着くことがある。 どちらの映画が面白いかはそれを観た観客が決めることであろうが、映画ファンであれば誰しも2人の共演を観たかったに違いない。 今や2人とも鬼籍に入って久しい。 あるいは今尚、天界で 「私が正しい」、「いや俺の方が正しい」 と喧々諤々の論争をしているのではあるまいか。

2022.03.10


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