Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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大いなる錯覚
 現代社会は物質的豊饒を謳歌しているようにみえてその実は精神的欠乏に喘いでいる。 科学文明がもたらした物質的豊饒が逆に精神的欠乏をもたらしたとは何とも皮肉な帰結である。 精神の欠乏は漫然と放置すればやがて絶望をもたらす。
 だが何があっても世界は変わりはしない。 そこにあるのは 「あるがままの今」 でしかない。 精神の欠乏をきたしたとしても 「何ほどのこと」 はないのである。 それは我々の周りで生きている他の生きものを眺めれば瞭然として明らかである。 明日に絶望して自殺する生きものなど見たことがないのであるから。
 現代人は明日を心配するあまり 「精神の衰弱」 に陥っているに過ぎない。 だがその衰弱は 「大いなる錯覚」 からもたらされたものであって、その錯覚が解消されれば病状は自ずと回復して精神的豊饒がもたらされるに違いないのである。 物質的豊饒は形ある物質的指向に優れた現代人にとってそれほど難しいことではないが、精神的豊饒は形なき意識的指向であって現代人にとってそれほどに容易なことではない。
 物質と意識の相関を描いた般若心経ではその応変を 「色即是空 空即是色」 と表現した。 曰く。 「あるとおもうとない ないとおもうとある」 である。 わかったようなわからないような応変である。 おそらく錯覚の中核は 「ここ」 であろう。 大いなる錯覚の解消はあるいはその逆の応変である 「色即是色 空即是空」 からもたらされるのかもしれない。 曰く。 「あるとおもうとある ないとおもうとない」 である。 おそらく我々以外の生きものたちはかくなる 「シンプルな世界」 に生きているに違いないのである。

2021.12.28


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