Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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未来の喪失
 「混沌からの秩序」 を著し、散逸構造理論(自己組織化)の研究でノーベル賞を受賞したイリヤ・プリゴジン(1917〜2003年)は 「カオス」、「複雑系」、「不確定性」 等々の概念を社会の一般人が受け入れたのは社会そのものが 「流動的」 になってきているからに他ならないと主張するとともに、その状況を以下のように要約した。
 たとえば信心深いカトリック教徒も、その両親や祖父母たちに比べればたぶん今ではそれほど深く信じていないであろう。 私たちはもう以前のようにマルキシズムや自由主義にこだわってはいないし古典的な科学をもまた信じてはいない。 同じことが 「芸術」、「音楽」、「文学」 等々についても言える。 社会は多様化した人生観や世界観を受け入れることを学んだのだ、そして人類は 「確信の終焉」 を迎えたのだ ・・・。
 翻って現在の世相を鑑みれば、まさに 「確信の終焉」 した時代そのもののようである。 地球温暖化にともなった気象変動予測。 確たる原因が見いだせない株価変動予測。 個々人の関係が希薄となった社会変動予測。 長期計画が見通せない経済変動予測。 継続性を失った労働需要の変動予測 ・・ 等々。 これらの予測に確信が持てないとすれば、即ちそれは確たる未来が描けないことを意味する。 確信の終焉とはまた 「未来の喪失」 でもあるのだ。 未来が失われれば、人々は自信なく刹那の狭間に漂っているだけの存在となってしまう。

2021.07.07


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