Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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旅する蝶の夢の中で
 毎年この時季になると我が家の庭に咲く花の密を求めて一匹の可憐な蝶が訪れる。 それが 「アサギマダラ」 であることを知ったのは、とある新聞記事を目にした先日のことである。
 淡い青緑色の羽とまだら模様の体が特徴のアサギマダラは 「旅する蝶」 として知られ、その移動距離は2500km超、日本列島を縦断、遙か海を越えて沖縄、台湾、香港に到達する程であるという。 春から夏にかけては本州などの標高1000m〜2000mの涼しい高原地帯を繁殖地とし、秋の気温の低下とともに適温の生活地を求めて南方へ移動し、冬の間は暖かい南の島の洞穴で過ごし、新たに繁殖した世代の蝶が、春から初夏にかけて今度は逆に南から北に移動、本州などの高原地帯に戻るという。 季節によって長距離移動の渡りをする蝶はアサギマダラが日本では唯一の種でライフスタイルは変わることなく継続されている。 その生態には謎が多いが、毒性の植物(フジバカマなど)を吸蜜することで、体を毒化し鳥などの捕食から逃れたり、台風を活用して移動したり、雨が降る前に一気に移動する等々、近年その 「不思議な旅」 の詳細が徐々に明らかになってきているという。
 それにしても、かくもささやかな一匹の蝶の身の内に、これほどまでの力が秘められているとは自然の驚異そのものである。 神の使いと称される動物はあまたいるが 「旅する蝶」 であるアサギマダラもまたそのひとつではあるまいか? 胡蝶の夢のごとく、私もまた旅する蝶の夢の中で宇宙の彼方を自由に旅したいものである。

※)胡蝶の夢
 荘子は夢で胡蝶となって自由に飛び回っていたが、目覚めてみると紛れもなく荘子である。 いったいそれは、荘子が夢で胡蝶となったのか? それとも、胡蝶が夢で荘子となったのか? 荘子の思想を象徴する寓話とも言われる。 この説話は 「荘子」 の中でも重要とされる 「斉物論篇」 を締めくくる位置にある。 「斉物論」 とは 「万物は全て斉しい(等しい)とする論」 とされ、是非、善悪、彼我を始めとした区別は絶対的なものではない事を主張している。 この説話でも夢と現実(胡蝶と荘子)の区別が絶対的ではないとされるとともに、とらわれのない無為自然の境地が暗示されている。

2020.09.07


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