Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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真の勝者は敗者のようにみえる
 真の勝者はともすると敗者のようにみえる。 昨日行われたラグビーワールドカップ日本代表の感謝パレードではベスト8進出の勇者に混じって長い不遇の時代を支えてきたスクラムハーフの田中史朗があたかも戦いに敗れた敗者のように涙にくれて歩いた。 本来は陽性で苦難の中では決して涙など見せない男が晴れの舞台では傍目をはばからずに泣いたのである。 彼にとってはもはや泣くしか他にこの喜びを表す方法がなかったのであろう。
 そして日本のベスト4進出を阻んだのは奇しくも前回大会で日本が勝利した南アフリカであった。 その戦いは当時 「奇跡の番狂わせ」 として世界の注目を集めた。 その南アフリカのラクビーチームには1990年、27年にわたる投獄(国家反逆罪で終身刑)から釈放され、1993年、デクラークと共にノーベル平和賞受賞し、1994年、南アフリカ初の全人種参加選挙により南アフリカ初の黒人大統領に選出された愛と寛容の指導者ネルソン・マンデラ大統領が起こした奇跡の実話を描いた映画 「インビクタス‐負けざる者たち‐」 (出演 / モーガン・フリーマン、マット・ディモン 監督 / クリント・イーストウッド 公開 / 2010年2月5日)がある。
 その中にモーガン・フリーマン演じるネルソン・マンデラ大統領が紹介したウィリアム・アーネスト・ヘンリーの 「インビクタスの詩」 が登場する。
  インビクタス −負けざる者たち−

 私を覆う漆黒の夜
 鉄格子にひそむ奈落の闇
 私はあらゆる神に感謝する
 我が魂が征服されぬことを

 無惨な状況においてさえ
 私はひるみも叫びもしなかった
 運命に打ちのめされ
 血を流しても
 決して屈服はしない

 激しい怒りと涙の彼方に
 恐ろしい死が浮かび上がる
 だが、長きにわたる脅しを受けてなお
 私は何ひとつ恐れはしない

 門がいかに狭かろうと
 いかなる罰に苦しめられようと
 私が我が運命の支配者
 私が我が魂の指揮官なのだ
 この世における本当の勝者の姿がいかなるものかを教えてくれる。

2019.12.12


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