Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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決め手は好きか嫌いか
 「貴方の言うことは論理的で正しいが 私は貴方が嫌いだ」 という対応は何を語っているのか?
 かってとある会社の販売本部長から聞いた話であるが「買うか買わないかを最終的に決めるものはその販売員が好きか嫌いかだ」という。 セールストークが上手いからといっても決め手にはならない。 逆に何をいっているのかわからないような販売員から買うこともある。 むしろその方が多いかもしれない ・・ というのである。
 これは重要なことを示唆している。 世がコンピュータ全盛となり、すべてが人工知能に置き換わったとしても、最後の決定は 「好きか嫌いか」 という人間特有の情感に委ねられるということである。
 ではその好きか嫌いかはどこからやって来るのか? いかなる人が好きか嫌いかは人生を賭けた究極の課題ともいえる。 私の好みが妥当かどうかはわからないが、しいてあげれば、それはその人が内蔵する「正義感」であり、「誠実さ」であり、「美意識」であり、「使命感」であり、「素朴さ」であり、「優しさ」であり、「明朗さ」であり ・・ 等々である。
 翻って現代社会の様相を眺めれば、それらの情感をさておいて、事の善悪や正誤をのみ口角泡を飛ばして論争しているだけのように観える。 人が内蔵する情操を無視しては、いかなる立派な主張であっても事の成否はままならない。 「仏造って魂入れず」とはこのことである。
 ハードボイルド小説の旗手、レイモンド・チャンドラーは自ら創りあげた私立探偵、フィリップ・マーロウに以下のような台詞を与えている。
If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.
強くなければ生きていけない 優しくなければ生きる資格が無い
 けだし名言である。

2018.03.14


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