Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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衣食足り過ぎて礼節を忘れる
 「Come September (9月になれば)」と呼ばれる9月になったが、今年の長雨は今日も降り続いている。現在の日本、あるいは世界もそうであるが、どうも今までになかったような変調をきたしている。天候異変はもちろんであるが、それ以上に社会そのものがおかしい。先進国と呼ばれる国々は経済の成長を第一義に掲げ、まっしぐらに驀進してきたのだが、もはや経済の成長だけでは、いずれの国もにっちもさっちもいかなくなってきている。「無限の物的豊穣」を追求してきた、さしもの現代文明も、とうとう限界点まで来てしまったのか・・?

 「衣食足りて礼節を知る」は、物的豊かさが不足していた時代には妥当なことわざであったが、過度に満たされてしまった現代では、「衣食足り過ぎて礼節を忘れる」かの様相を呈している。「過ぎたるは及ばざるがごとし」、ことわざはことわざをもって駆逐されるのである。打開の道は「価値観の転換」である。表裏一体の理に従えば、表でなければ裏であり、それは「精神的豊かさの追求」になることは必然の帰結であろう。経済の成長が必ずしも精神的豊かさをもたらさなかったことは、現代の社会世相を眺めれば誰しもがわかったことであろう。

 見習うべきは、「日光東照宮の装飾華美」から「桂離宮の簡素淡泊」へと向かった建築様式変遷の経過・・「味の濃い田舎料理」から「味の薄い京料理」へと向かった食文化変遷の経過・・等々である。物質文明の成長が、人間のこころに「何をもたらすのか」を暗黙裏に教えてくれる。

2014.09.01


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